宝塚全体が哀しみに包まれている中、こんなブログを書いていいものかと悩みましたが、
同じように思われる方も多いのではないかと、思い切って書くことにしました。
『PAGAD(パガド)』を観て感じたこと
9月30日、阪急交通社の貸切公演を、今回の訃報のことは何も知らずに観劇しました。
長らく2番手を務めた芹香斗亜さんが、満を持して臨むトップスターお披露目公演です。
お祝いムードに包まれた観客席で、宙組を愛してきた一人として、
芹香さんのトップ就任をお祝いしたい、そんな思いで座席に着きました。
ところが観劇後の私の心は、晴れやかな心からはかけ離れた暗く重いものでした。
ダークヒーローとしての主人公は、キャリアを積んだ芹香さんによってカッコよく魅力的に演じられていましたが、
屈折した心情なので、万人には共感されにくい人物設定です。
舞台全体が一貫して暗く、結末の描かれ方もお祝いムードとは程遠い…。
さらに新しく組むトップコンビのお披露目なのに、結ばれない結末。
前宙組トップ、真風涼帆さんのお披露目公演『天は赤い河のほとり』は、
華やかな王の戴冠式でトップコンビが並ぶというエンディングでした。
新生宙組の船出を象徴しているようで、お祝いするムードに満ちていたのです。
『パガド』は幕が上がって2日で休演となってしまったため、まだ観劇された方も少ないと思いますが、
宙組を観続けている方は、前任の真風さんのお披露目時と比べて、
より一層その差を感じるのではないでしょうか。
できればお披露目公演では、芹香さんを始め宙組生全員の笑顔が見られる公演にしてほしかったです。
作品の内容に応じて楽屋の雰囲気が変わるという話を聞いたことがありますが、
それだけ舞台で演じる役柄に、それぞれが没頭しているということなのでしょう。
今回は始まったばかりで、楽屋の雰囲気がどうだったかは計り知れませんが、
できれば明るく陽気な雰囲気の中で、新トップコンビお披露目公演を宙組生に演じさせてあげたかった…と思います。
作品の最終決定権は誰にある?
『パガド』は、アレクサンドル・デュマ・ペール作のピカレスク小説をベースとした映画を元に、
田渕大輔先生が脚本を書かれ、演出された作品です。
田渕先生は、過去の芹香さんの作品や演技から、是非とも芹香さんにダークヒーローを演じてほしかったそうです。
「お披露目公演でダークヒーローを演じられるのは芹香さんしかいない。」と「歌劇」の座談会でおっしゃていました。
確かに芹香さんは、男役として完成された魅力や色気にあふれていて
ダークヒーローであっても素敵に演じてくれるのは間違いないでしょう。
お披露目公演の主人公が、ダークヒーローであってもいいとは思います。
トップスターがダークヒーローでも、カッコよくて素敵だと感じられれば…
今回の脚本で、そう感じられると田渕先生は思われたのでしょうか…?
宝塚の座付き作家なのですから、芹香さんのお披露目公演と踏まえた上で、
トップスターの芹香さんをもっと魅力的に描けたはずです。
少なくとも芹香さん演じるジョゼフが、山吹ひばりさん演じるゾロイダの頬を叩く描写はいりません。
脚本・演出家は創作家、アーティストであって、ご自身の作品を渾身の力で作り上げるのですから、
出来上がった作品に満足や誇りを感じるのは当たり前のことでしょう。
けれども、座付き作家として芹香さんのトップお披露目公演を創作するという認識よりも、
ご自分の創作意欲の方を優先させた印象を強く持ちました。
座付きであることをもっと意識するべきだと思います。
出来上がった作品をその内容で上演して良いかどうか、最終的には誰が決定するのでしょうか。
プロデューサー…?理事長…?
個人なのか複数人なのか、詳しいことは分かりませんが、
この内容でゴーサインを出した個人?組織?に、生徒を大事にする気持ちがあったのか…
お披露目公演を大切に盛り上げようという愛情を、とてもじゃないですが感じることができませんでした。
そんなところに、今の劇団幹部のありかたを見るようで、本当につらく悲しい気持ちになりました。
お祝いするべき芹香さんのトップお披露目公演に対して、
こんなケチをつけるような内容になってしまったことを本当に申し訳なく思います。
生徒さんたちは本当にそれぞれ一生懸命役を演じられていて、あくまでも脚本・演出・運営に対する思いです。
今後、どのような形で公演が再開されるのかは分かりませんが、
少しでも良い方向に向くよう祈らずにはいられません。
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